ベートーヴェン 交響曲第9番
本日は言わずと知れた名曲、第九ことベートーヴェンの交響曲第9番を紹介、解説していきます。
曲解説
作曲は1824年、ベートーヴェン56歳で書いた最後の交響曲。
全4楽章からなり、それまでの慣習とは違い2楽章にスケルツォ、3楽章に緩徐楽章を置いていて、さらに当時では大変珍しく声楽を4楽章に取り入れている。
その歌詞はシラーの詩「歓喜に寄す」から引用し、ベートーヴェン自身が編集して曲につけた。
演奏時間は60分を超え、これも当時としては異例の長さ。
楽器編成も大規模で、それまで交響曲ではほとんど使われていない打楽器(シンバル、トライアングル等)も使われている。
演奏家の視点
私はこれまでに第九を300回ほどは演奏してると思うが、何が凄いって何回演奏しても飽きないで、しかも何かしらの発見をできる事。
これはもの凄いことなんですよ。
個人的には名曲と呼ばれているものは演奏を複数回しても飽きない事が多いのですが、それでも数十回演奏すると飽きてしまいます。
この曲に関しては数百回演奏しても飽きないので、ある意味バケモンです。
ところで第九は海外では日本のように頻繁には演奏されません。
それどころかあまり演奏されない曲なんです。
祝典の際など特別な時に演奏される事が多いです。
ではなぜ日本ではこうも年の瀬に第九を頻繁に演奏する事になったのか?
諸説あるのですが、戦後オーケストラは経営難に陥っており、それを解消するために合唱団も入るので客入りが望まれる第九を演奏するようになったとのことです。
第九の合唱の人数は日本以外ではかなり少人数で日本での公演のように大人数で行われることはほぼありません。(日本でもコロナ禍で人数を減らして、今は以前ほど大人数ではありませんが)
家族、知り合いがチケットを買って聴きに来てくれるので、合唱団の人数が多い日本では商業的に理にかなってるのかもしれません。
実際、今日本のプロオーケストラにとって第九公演はドル箱公演です。
さて、第九の有名な部分といえば?
と、聞かれると大半の方が4楽章の合唱の入る部分と答えるでしょう。
CMなどにも流れているので聴いた事ない日本人は皆無ではないかと思います。
事実、第九の演奏会では合唱が入るまでは寝てらっしゃる聴衆の方も少なくありません。(特にアマチュアの合唱団と共演する際)
そして合唱が始まるとよいしょ、とぞくぞくと目覚められます笑(演奏者は意外と聴衆の事よく見えています)
と、言う訳で第九で有名なのは第4楽章で異論ないとは思います。
ただここで演奏家目線で言わせていただくと、
4楽章、実は演奏していてあまり面白くはないのです…
もちろん素晴らしい部分もあるのですが、構成が他の楽章より劣っているようで支離滅裂に感じることがあります。
少し強引に書かれている感じがします。
では第九で素晴らしいと思う楽章は?
これは断然1楽章と3楽章です!!!
先ほど第九は何回演奏しても飽きない、と言いましたが正確に言うと、第九の1楽章と3楽章は何回演奏しても飽きない!なんです。
1楽章ではコーダ(曲の終わりの部分)の神々しさ、3楽章の祈りの音楽、本当に素晴らしくいつも演奏しながら感動しています。(もちろん聴いてる時も)
対して2楽章と4楽章はちょっと演奏する事に飽きてしまう時もあります。(その年初めて演奏する時は飽きてませんけど、回数を重ねると…)
もちろん私見なのでその辺りはご了承ください。
これから第九をお聴きになる方に…
4楽章を聴きたいのを我慢して、まずは1楽章を繰り返し聴いてみて頂きたいのです。
そのあとは3楽章、2楽章、そして最後に4楽章を…
こう聴くことによって、4楽章の有名な歓喜の歌の部分がより心に響くものになるのは間違いないと思います。
余計なお世話かもしれませんが、実践された方は是非ご感想をお寄せください。
しかし、第九を作曲している時、ベートーヴェンはほとんど聴力を失っていました。
にもかかわらずこんな曲を書いてしまうなんて、やはり彼は天才中の天才です。
お気に入りの演奏
第九は有名曲でもあり、無数に演奏が存在します。
私も多分100種類くらいは鑑賞しましたが、なかなか好みの演奏には辿り着きませんでした。
なので初めから好みの演奏を探すのではなく、まずは聞いたことのある指揮者のもの聴いてみるのが良いかもしれません。
ただそれはそれで構わないのですが、曲は演奏によってかなりイメージが変わります。
ですので好きな演奏家をなるべく早くご自身で探して鑑賞する事が、曲を深掘りする事にも繋がると考えます。
お気に入りの演奏家を見つける事がクラシック音楽を深掘りする近道だと思います。
さて第九といえば必ずと言って良い程取り扱われる演奏といえばフルトヴェングラーがバイロイト祝祭管と演奏したものです。
もちろん素晴らしい演奏で私も好きな演奏ではありますが、やはり古い録音なので音の状態は悪いので、なかなか人におすすめは出来ません。
しかもある意味個性的な演奏なので、初めて聴く方にはおすすめ出来ないです。
いろいろ聴き込んだのちに一度聴いてみてください。
ですので、ここでは別格の歴史的演奏ということで紹介しておきます。
私のお気に入りは下記になります。
共通点は…… 3楽章のテンポが全部遅めの演奏なんですよね。(ちなみに上記フルトヴェングラーは特に遅い)
あぁ、そういえば昔、アバドとベルリンフィルの演奏を聴いて、3楽章の早さに閉口したことが…
私は第九の3楽章が早い演奏は受け付けないようです。
録音年 1957、58年 お気に入り度 ★★★★★
フリッチャイは私の大好きな指揮者の一人で、彼の残したベートーヴェンの演奏は特にお気に入りの演奏です。
彼は白血病のために若くして亡くなっていますが、もし彼が長生きしてくれていたら、きっと世界の指揮者の相関図は大きく変化していた事でしょう。悔やんでも仕方のない事ですが…
この頃のベルリンフィルは現在とは違いまだドイツのオーケストラの音がしており、重みも有りつつ推進力もある。
2楽章のティンパニはもう少し硬めのバチの方が好みだが、そこは些細な問題で最後まで第九の素晴らしさを堪能させてくれている。
1番私が聴く演奏。
録音年 1957年 お気に入り度 ★★★★☆
クレンペラーも好きな指揮者の一人。
一聴するとほぼインテンポで悪くいえば無愛想。
それが彼の演奏の特徴の一つ。
なので実は初めて聴く曲をクレンペラーの演奏で聴くともしかするとつまらない演奏と思ってしまう可能性も無くはない。
ん?じゃあなんで好きなの?
と、思ったそこのあなた!それを今から説明します。
まずクレンペラーの演奏は第九に限らず何度も聴いてるうちに曲の持っているスケール感をこれでもか、と感じさせてくれるのです。
ですのでもともとスケールの大きくない曲だと彼の良さが裏目に出てしまう事もしばしばあるが、第九はスケールが大きい曲なので心配には及びません。
また、これは後述するワルターとの共通点なのですが、ただ演奏するだけでは聞き取れないフレーズ等をサラッと聞かせてくれるのが気持ち良いんです。
それは木管楽器だったり、弦の内声だったり…
よくぞ聞かせてくれました!と唸ってしまう部分が多々有り、とても楽しいのです。
実は若い頃はクレンペラーの良さはイマイチわからず、どちらかと言うと苦手な指揮者でしたが、今はその頃が嘘のように大好きな指揮者です。
録音年 1959年 お気に入り度 ★★★★☆
ワルターの第九?
名盤を扱う書籍とかには出てこないけど…
なんてお思いの方?評論家の方々の意見は意見。
少なくとも私が第九を鑑賞しようとする時に真っ先に浮かぶ演奏なんです。
ワルターらしく優しさと厳しさを伴いつつ楽譜の読みもさすがな演奏です。
惜しい点としてはオーケストラの力量で、頑張ってはいますが破綻してしまう箇所もあったりなかったり…
ただ、ワルターの音楽が素晴らしいのであまり気にはなりません。
ここでコロンビア交響楽団の話を少し。
まずコロンビア交響楽団は常設のオケではありません。
この演奏でのコロンビア交響楽団は、高齢になって演奏活動を縮小していたワルターを「マエストロ!なんとか録音だけでもお願いします!!!ステレオで録音できますし!」とワルターが暮らしていたアメリカ西海岸のプレイヤーを集めて作ったオーケストラです。
このオーケストラを編成してくれたおかげでワルターの数々の名演がステレオ録音で聴けるのとてもありがたいことです。
お気に入りは上記3点ですが、好きな演奏はまだまだありますので少し列挙しておきます。
録音年 1987年 お気に入り度 ★★★★
録音年 1982年 お気に入り度 ★★★★
録音年 1970年 お気に入り度 ★★★☆
ライナー指揮 シカゴ交響楽団
録音年 1961年 お気に入り度 ★★★☆
モントゥー指揮 ロンドン交響楽団
録音年 1962年 お気に入り度 ★★★☆
録音年 1979年 お気に入り度 ★★★☆